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GGX×TCFDサミットは2023年10月2日に終了いたしました。
本会議の映像は下記よりご覧いただけます。
GGX×TCFDサミットの概要
- 日時:2023年10月2日(月曜日)10:00~17:00
- 開催方法:ハイブリッド開催(現地/オンライン)
- 主催:経済産業省
- 共催:WBCSD、TCFDコンソーシアム
プログラム
開催概要
経済産業省は、9月25日から開催した「東京GXウィーク」及び「Japan Weeks」の一環として、10月2日(月曜日)、世界のグリーン・トランスフォーメーション(GX)の実現について議論する「国際GX会合(GGX)」とTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言について先進的に取り組む世界の企業や金融機関等のリーダーを集めた「TCFDサミット」の両イベントを統合し、「GGX×TCFDサミット2023」を開催しました。
本会合では、(1)産業の脱炭素化に向けて、(2)企業の「課題解決力」と「削減貢献量」、(3)気候関連情報開示の今後、(4)トランジション・ファイナンスの今後の展望の4つのセッションが行われ、それぞれのテーマについて国内外の有識者から提言をいただいた他、パネルディスカッションでGXの実現に向けて今後必要な取組について議論を行いました。
議論の内容
Opening Remarks
畠山 陽二郞
経済産業省 産業技術環境局長
政府は脱炭素、エネルギー安定供給、経済成長の3つを同時に実現するため、GX推進戦略を策定。先行投資とカーボンプライシングを組み合わせた「成長志向型カーボンプライシング」がGX政策の柱であり、GXの投資を支援する「GX経済移行債」を今後10年間に20兆円規模で発行する。
今年からGGX会合とTCFDサミットを統合し、産業の脱炭素化とその実現に必要なファイナンス、それを支える情報開示をテーマに「GGX×TCFDサミット」を開催。本サミットを通じ、GX実現に向けた議論をより深めていく。
十倉 雅和 氏
一般社団法人日本経済団体連合会 会長
日本政府のGX政策を歓迎。官民合わせた150兆円規模の投資を今後10年間で実現するには、民間資金の動員にむけた環境整備が急務。現時点で存在しないゼロエミッション技術のイノベーションに取り組む企業への長期的支援が求められる。また、排出削減に資する技術・製品・サービスの普及のために「削減貢献量」の積極的評価に期待。
今までにない規模での産業の転換を行うため、官民金で協力して取組を推進することが必要。
加藤 勝彦 氏
一般社団法人全国銀行協会 会長
金融機関は企業の開示情報を活用し、実体経済の移行に必要な資金を円滑に供給し、企業の取り組みを加速する。
一方、銀行界も投融資を通じたCO2出量の削減が求められている。日本に銀行が誕生して150年という節目において、エンゲージメントの充実、企業による開示の支援、そしてサステナブルファイナンスの拡大を通じ、これまで同様、産業界、日本政府と一丸となってGXに挑み、脱炭素社会実現を目指す。
David Atkin 氏
CEO, Principles For Responsible Investment (PRI)
PRIは2006年の発足から持続可能なクロ―バル金融システムの構築を支援するため、6つの原則を提示。現在約5,500の機関が署名し、運用資産額は120兆ドルを突破。
気候変動や生物多様性に関して世界的な合意がなされる中、責任投資に対する期待は一段と高まっている。PRI in Personの会合が完売し、本会合が盛会であることから、東京ではサステナブルファイナンスの機運が高まっていることを感じている。
Session 1
Keynote Speech 1
Gianluigi Benedetti 氏
Ambassador, Embassy of Italy In Tokyo
気候中立経済への移行において産業界が主導的な役割を果たすと考えている。産業の脱炭素化において重要なことは、競争力のある産業を維持することと、カーボンリケージを防ぐことである。この観点から、日本も注力頂いたG7の産業脱炭素アジェンダ(IDA)イニシアティブは重工業の脱炭素化と革新的技術開発を目的とした戦略的枠組みを提供しており、イタリアとしてもこの重要な活動を引き継いでいきたい。イタリアの産業部門からの排出の64パーセントが削減困難な(hard-to-abate)部門であり、国内総生産の5%、70万人の雇用を占めている。イタリア政府は国家復興・強靭化計画資金の31.5%の594.7億ユーロ―を脱炭素への取組に当てるが、それでもこれらの解決策が全ての生産状況に適しているわけではない。あらゆる選択肢を排除せず、統合的な脱炭素戦略を策定することが不可欠である。来年のG7イタリアに向けて日本議長国のもとで進められた活動を引継ぎ、この共通の目標の達成に向けて野心的に取り組んでいく。
Panel Discussion 1
産業の脱炭素化に向けて鉄鋼や化学などの排出削減が困難なセクターからのCO2排出量は世界で30%を占めており、これらの分野の脱炭素化に必要なグリーン市場の需要喚起の必要性及びその課題について議論を行った。グリーン市場の需要喚起にはFMC(First Movers Coalition)による民間調達、IDDI(Industrial Deep Decarbonisation Initiative)による公共調達を促すイニシアティブが大きな推進力になり、排出削減が困難なセクターに必要な投資を呼び込み、先進的な脱炭素技術の商用化につながることが強調された。グリーン製品の購入を消費者に促すには、環境価値を見える化し適切に評価され、消費者がコスト増を受け入れるビジネス環境が必要であるという課題が指摘された。
次に、グリーン市場の創出のためのデータに基づく産業脱炭素化について議論を行った。ニア・ゼロ・エミッション素材の定義に関する議論を進めることが重要であり、そのためには各国異なる排出測定方法がある中で適切なデータを収集、評価し、調和させる必要があることが指摘された。G7産業脱炭素化アジェンダでは、鉄鋼セクターで「グローバル・データ・コレクション・フレームワーク」の開始に合意したことが紹介された。また、会社全体として着実な排出削減を達成していくマス・バランスアプローチは、ニア・ゼロ・エミッション素材の初期市場創出のために有益であり、上流と下流産業で考え方を共有することにより、サプライチェーン全体の着実な脱炭素化につながっていくとの意見も示された。
最後に、COP28に向けて産業の脱炭素化には発展途上国を含むすべてのプレーヤーの行動を加速する必要があり、バリューチェーンや主要セクターを超えて業界のトランジションを推進していくため、国際的なイニシアティブへの参加も含めて、官民で協力して取り組んでいくことの必要性が発信された。
Session 2
Panel Discussion 2
企業の「課題解決力」と「削減貢献量」SDGs達成に向けた企業の貢献に対して社会の期待が高まる中、企業活動を通じた社会課題解決への貢献による価値創出、すなわち「課題解決力」が求められている。気候変動に関しては、GHG排出量が企業の競争力に影響を与えるリスク要因と見なされており、スコープ1~3の評価手法の開発に繋がった。しかし、これだけで企業を評価するには不十分であり、企業の社会全体の排出削減への貢献を評価し、ポジティブな気候行動を促す他の仕組みが必要である。期待されているのが企業の「課題解決力」を示す一つの指標としての「削減貢献量」である。金融機関の観点からも、企業自身の排出削減という「リスク」面だけに焦点を当てて企業を評価するよりも、企業の「成長機会」を見たいと思っており、そもそも、イノベーションを通じて社会全体への削減貢献を追求していくことが最も効率的に資本を配分できるため、より包括的なアプローチで脱炭素に貢献する企業を評価することができるとの指摘がなされた。ただし、グリーンウォッシュを避けるため、削減貢献量はスコープ1~3の排出とは明確に区別されており、オフセットの手段として使用できないことに注意が必要であることも指摘された。
削減貢献量はまだ測定手法が確立していないという課題があり、グリーンウォッシュを防ぐためには、多様なステークホルダーとともに削減貢献量のデータの開示・分析に関する議論を進めていくことが重要であると強調された。世界では、IECにおいて電機電子分野における削減貢献量の測定手法の標準化が進められており、2024年末の公表を目指している。WBCSDにおいては、今年3月に出したガイダンスに基づき、それがより実態に即したものとなるよう、セクター毎のケーススタディを実施している。また、日本国内のGXリーグにおいても、金融機関における削減貢献量の活用事例に関するケーススタディが実施されている。削減貢献量が金融機関における企業評価基準の一つとして活用されるためには、電機電子分野のように同じ業界内で測定方法の標準化を進めるとともに、比較可能な他の業界にも同様の取組が拡大し、業界横断的に比較可能なデータとなることへの期待が示された。
削減貢献量の考え方をさらに社会に浸透させていくためには、まずはステークホルダー間で削減貢献量に関する議論の場を設け、コミュニケーションを促進することが重要であることを確認した。
Session 3
Keynote Speech 3
Emmanuel Faber 氏
Chair, ISSB
ISSVは6月、企業のサステナビリティ全般に関する「S1」と気候変動に関する「S2」という2つのIFRSサステナビリティ開示基準を公表。両基準ともTCFD提言に沿って設計された。
TCFDを設立した金融安定理事会(FSB)は「TCFDの取り組みがS1、S2に結実した」と高く評価。基準の採用は各国の判断によるが、他国に先駆け、これをベースに国内基準を検討している日本のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)に深く感謝。
宮園 雅敬 氏
年金積立金管理運用独立行政法人 理事長
GPIFが運用する約220兆円の年金積立金は将来の年金給付の財源。着実に増やすことが使命だが、気候変動リスクは、全ての資産に同時に生じ、分散投資での回避は困難であるため、GPIFは気候変動を最重要テーマと位置付け、18年にTCFD提言への賛同を表明。適正な情報開示は、企業の競争力評価をするうえで大変重要な要素。排出削減に取り組む企業が適正に評価され、投資が進むことが脱炭素実現に繋がる。
水野 弘道 氏
グッドスチュワードパートナーズ合同会社 代表社員
TCFD設立から8年間、気候変動に関する情報開示を推進してきたが、それも終わる。今後は開示された情報をいかに投資家の使いやすい形に加工し、どう金融分析や意思決定に生かすか重要。
米国で反ESGの動きが活発化しているが、これは政治的な問題。金融界で「気候リスクは投資の運用成果に影響するか?」と問えば、大方の人がイエスと答える。
TCFDの取り組みに最も貢献している国は日本。今後の日本企業の取り組みにも期待。
Panel Discussion 3
気候関連情報開示の今後本夏に国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の開示基準が公表され、気候変動関連情報開示の更なる推進への期待があるとの認識のもと、トランジション・ファイナンスを推進する上で企業側・金融機関側で求められる開示の在り方について議論がなされた。
トランジション・ファイナンスをより広く普及するには、適格な移行計画の策定・開示が必要。GFANZの策定しているガイドラインなどのツールがあり、それにならった開示をしている企業数も増えているところであり、今後の発展への期待が示された。
金融機関としては、ポートフォリオ上の排出量をどう開示するかが課題であると認識。ファイナンスドエミッションはある一時点での金融機関のポートフォリオ上の排出を示すのみであり、今後の削減経路が見受けられないことの限界があると認識された。その上で、当日発表された日本の官民サブワーキングのペーパーを歓迎した。
Session 4
Keynote Speech 4
Mary Schapiro 氏
Head, The TCFD Secretariat
ISSBにより、世界共通の気候情報の開示基準が確立。また、GFANZも昨年、移行計画のフレームワークを公表。
経済の脱炭素化を可能にする技術や製品、ネット・ゼロを目指すビジネスモデルへ、信頼できる移行計画を持つ企業、ネット・ゼロ経済から取り残されるリスクがある高排出資産の管理された形での段階的な廃止への資金供給を行うため、移行計画を含む一貫した情報開示を通じて目標達成を後押しする必要がある。
伊藤 邦雄 氏
TCFDコンソーシアム 会長
TCFDの賛同機関数4,700超のうち、1,454は日本の機関。開示基準は今後、TCFDからISSBに移管されるが、TCFDコンソーシアムが情報を開示する側とそれを活用する側が協働し、グローバルな動きについて議論する希少な場であることに変わらない。
トランジション・ファイナンスの重要性について5月のG7広島サミットで認識された。企業が開示を進化させ、金融機関が評価し、気候変動対策に必要な資金が潤沢に供給されることを期待。
Panel Discussion 4
トランジション・ファイナンスの今後の展望トランジション・ファイナンスは初期の案件からグリーンウォッシュという印象が付いてしまったが、世界的にトランジション・ファイナンスが必要であり、欧州でも理解は進んできている。その推進には日本が作成しているロードマップや、ICMAハンドブックに記載されているトランジション戦略が重要。各種ツールが揃ってきている状況であり、トランジション・ファイナンスの推進について真剣に語る場が出来つつある。今後の更なる促進には、タクソノミーは実装時期の見通しが立てづらいイノベーションと相性が悪いなど、各種手法が一長一短であることを認め、環境整備を進めていく必要があることが認識された。
金融商品としてはグリーンボンド、トランジション・ボンドと色々種類はあるが、いずれも同じ気候変動対策の違う側面にフォーカスをあてているものであることを認識し、トランジション・ボンド市場の急速な拡大への期待が示された。
アンモニア燃焼技術はトランジションに大きな貢献を果たすと期待されることを例に、脱炭素にむけて、全ての手段について研究開発を推進すべきであるとの考えが共有された。欧州Invest EU、米国IRA、日本のGX政策は革新的な取組であり、長期的なトレンドとなるだろうという考えが示されたGXに不可欠な新技術の開発・実装には、引き続き金融機関と企業の対話に加え、適格性を保証するための開示が必要であることが認識された。
Closing Remarks
Peter Bakker 氏
President and CEO, World Business Council for Sustainable Development (WBCSD)
2019年のTCFDサミットの議論は、概念的な内容であった。脱炭素という言葉は使われず、成長と環境の好循環と言っていた。しかし今回、全てのスピーカーが脱炭素に向けて、30年までに温暖化ガスの50%削減、50年にはカーボンニュートラル達成をしなければいけないと話した。気候変動対策としてのトランジションは19年当時のような概念ではなく、実行プランである。実行へ移すには資金が必要。そこでトランジションの進捗を算定し、その結果を開示する。それを投資家が評価し、有望なソリューションへと資金を振り向ける。こうした好循環をつくり出すことが欠かせない。今回、企業のトランジションとアカウンタビリティー(説明責任)を組み合わせた議論が行われたことは大変意義深い。